盛土規制法の盛土申請実務に関する補足情報

   ※記載してある頁は、『盛土等防砂マニュアルの解説』に対応している  ちょっとした解説
01)渓流盛土では3次元解析で「すべり面の発生位置等」の妥当性の検証が必要との記載    盛土の安定性の検討方法

(1)3次元浸透流解析(FEM)は熱海市の事例に基づいて「できる」と評価しているが、最終報告書を見れば明らかなように「できなかった」→それを民間事業者の申請時に求めるのはおかしい。


(2)3次元変形解析(FEM)についても、「多くの情報が必要」「計算時間がかかる」「精度上限界がある」「不均質性を3次元モデルに反映させて解析を実行することは難しい」とかなり否定的に書かれている。


(3)3次元解析の目的は、2次元解析の妥当性を検証するためにあると読み取れるが、妥当性を検証する前に3次元変形解析自体の妥当性について新基準側が自ら疑問を呈している。


これらの記述を見ると、新基準を作成した側の人自体が、3次元解析が実際にできるのかどうか疑問を持っているように見える。
3次元変形解析及び3次元浸透流解析方法並びにソフトウエアは存在するが、浸透流解析は未だ技術分野として実務に使えるレベルではない   3次元変形解析は、有限要素法(FEM)で歪分布等を把握することに有用である。斜面安定性評価として活用する場合には、せん断強度低減法(SSR)を用いて安全率Fsに換算する手法が用いられる。


3次元浸透流解析は、有限要素法(FEM)で間隙流を対象とした解析が可能である。圧力水頭がゼロになる位置を地下水面として考えることができる。

谷側面からの地下水流入(基底流量に相当)の設定方法が定まっていないことや、ソイルパイプなど高透水部の取り扱いができないことなど、まだまだ課題が多い手法である。

一方、モデルを作成するに際しての調査量が莫大であることから、現時点では実務に使える技術とはいいがたい。
02)変形解析及び3次元安定計算による盛土全体の安定性の検討
  3次元変形解析(有限要素法;FEM)に関する記述が(ア)に書かれている。

解説を読むと、地震時における残留変形量を予測することが解析目的のように書かれている。盛土基準では、変形量の規定は一切ないので、変形量をどのように盛土の安全性の評価に組み入れるのか不明確である。

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3次元安定解析(極限平衡法;LEM)についての記述が(イ)に書かれている。

フェレニウス法を3次元に拡張したものがホフランド法なので「フェレニウス法」の記載は間違いだと思われる。

3次元安定解析は、3次元形状および側面効果も見込めるため、より実現象に即していると書かれている。3次元物体の絶対安全率は、3次元法でなければ計算できないが、その際の評価の閾値は、安全率Fs=1.00となる。さらに世界標準の性能設計ではそのうえで崩壊確率PFで評価することになる(Fs=1.00はPF=50%と等価なので)。


盛土基準の安全性評価は「必要安全率(常時1.5、大地震時1.0)」で行われるが、3次元安定解析の安全率が2次元解析のそれよりも一般的に大きな値となるので、安全性照査は2次元安定解析で行われることになる。

2次元安定解析は従来から極限平衡法(LEM)で行われているので、検証のために行われる3次元解析も極限平衡法の方が相性が良い。
03)盛土法面の安定性の検討

最小安全率の規定
  盛土法面の安定に必要な最小安全率は、盛土施工直後(=常時とみなしてよい)でFs≧1.0、大地震時にはFs≧1.0とする。なお水平震度はkh=0.25。

盛土「法面」と言っているので、法面の表層崩壊に近い計上のものが想定されている。

04)盛土全体の安定性の検討

最小安全率の規定
  盛土全体の安定性の検討とは、いわゆる滑動崩落の安全性のことである。

滑動崩落においても、安定に必要な最小安全率は、盛土施工直後(=常時とみなしてよい)でFs≧1.0、大地震時にはFs≧1.0とする。なお水平震度はkh=0.25。盛土法面と同じ規定である。
05)最小安全率の解説   盛土の安定に必要な最小安全率を決めた根拠について記載されている。

常時については1.2〜1.5に定められていることが多いが、盛土基準においては1.5とした、と記載されている。特別な科学技術的根拠に基づいたものではなく、従来基準の最大値を取ったということである。


地震時については最小安全率1.0以上としている。

従来の基準類の中には1.2以上としているものもあるが、ここでは従来基準の最小値を採用している。

土質強度を実測し、順計算で安定計算を行う場合、土質のばらつきを考慮すれば、安全率Fs=1.0は崩壊確率50%と等価であるため、安全評価には過小と考えられる。

常時1.5を確保した際に、地震時がギリギリ1.0程度であれば、設計者は慎重に追加検討を行うことが望ましいと思う。

06)3次元解析する必要性の理由 RS3とRS2の使用におけるパラダイムの逆転

Reversing the Paradigm in the Use of RS3 and RS2


そもそも3次元解析する必要性に関する理由が新基準では不明確です。

三次元解析ツールを開発し市販しているカナダのRocscience社は、3次元解析で「空間関係を2次元解析よりも正確にとらえ」、そのうえで詳細な解析が得意な2次元解析を行うのが適切だと提案しています。

盛土基準においては2次元解析の安全率が安全性評価指標となっている点では従来基準と何ら変わりません。

しかし、埋没地形と地表地形が異なる渓流の大規模盛り土において、盛土の真ん中に2次元解析のための断面を設定するのが最適とは限りません。見当違いとなっている場合もあり得ます。

新基準における3次元解析推奨は、そのような見当違いの場所で2次元解析をして誤った安全性評価をしないように、という趣旨だと考えられます。
07)変形解析の現状   変形解析の現状についての記載があります。

ここでも逢初川(静岡県、2022)が事例として説明されています。ここでは、実現象を再現するための計算として活用され、それがある程度できた、と記載されています。

ただし、その実例は「2次元解析」のようです。計算結果も「せん断ひずみが局所的に大きくなっている個所で滑りが生じた」との評価なので、「すべり面探索」をしていたことになります。

また、「現状では大規模な谷埋め盛土の場合は、多くが2次元モデルであり、3次元変形解析の事例は殆ど見受けられない」とも書かれています。

国レベル、研究者レベルでもほとんど実施されたことのない3次元変形解析を、民間事業者に求める段階にはまだ来ていないように思います。

これに対して、極限平衡法(LEM)の3次元安定解析は、従来より行っていた2次元解析の3次元モデルへの拡張版で、せん断破壊面の形状を探索します。計算結果は安全率Fsなので、2次元解析と同様の取り扱いができます。
08)浸透流解析の現状   新基準内に浸透流解析の現状が解説されている。谷埋め盛土の斜面安定性評価において「三次元浸透流解析が行われた事例は現時点において見受けられない」とある。

また、静岡県(2022)で「盛土の安定性評価において三次元浸透流解析が使われつつある」と書かれているが、最終報告書では「できなかった」と結論付けられている。
09)静岡県の逢初川土石流発生原因調査報告書   盛土の新基準で記載されている、静岡県(2022)の最終報告書の記載。


新基準執筆時には、盛土解析において三次元浸透流解析による実現象の再現が実現する見込みだったと思われるが、実際には断念している。

これは、盛土などの地中侵食を受けやすい地盤の場合、盛土内に数多くのソイルパイプ(静岡県の報告書ではパイピングホールと表現したりミズミチと表現したりしている)が形成され、地山との境界部には非常に大きなソイルパイプ(報告書では透水性の高い層、と表現)を流れる「パイプ流」が地下水流動を支配しているのにたしい、浸透流解析は土の粒子の間を縫って流れる「間隙水(マトリックス流)」を解析するからである。

静岡県の報告書を見ても分かるように、この解析には非常に多くの調査費用、調査期間がかかる上に、結論として「解析不可能」となっている。

いくら盛土の安全性評価のためとはいえ、この負担の重い解析を民間事業者に求める合理性は無いものと考えられる。
10)間隙水圧設定の現実的方法   三次元浸透流解析が、現状の技術レベルでは現実的にはできないことから、次善の策として別の設定方法が必要になる。

新基準に提示されている左記の水位の設定方法は、十分次善の策として活用可能と考えられる。
11)盛土材の液状化判定と過剰間隙水圧設定法    
盛土材が中間土であれば、細粒分が多く含まれ、液状化判定のFL値が1.0以下となることはほとんどの場合ないですが、FL値が1.0超であっても過剰間隙水圧が発生することがあるので、その場合にはこの図を用いて過剰間隙水圧比を設定します。

FL=R/L

R:動的せん断強度比
L:地震時せん断応力比
12)極限平衡法による3次元安定解析    
従来から行われてきた2次元安定解析(いわゆる円弧滑り法)を3次元に拡張したものが3次元安定解析です。

計算結果が安全率Fsであるため、2次元鑑定解析との相性が良いです。
13)持ち込み盛土材料が不明の場合の解析法  


盛土材の強度があらかじめわかっている場合は、土質試験値をそのまま適用すればよいが、残土処分地のようにどのような材料が持ち込まれるか不明の場合には、「受け入れ可能強度」を計算により解析する必要がある。

この解析は2次元安定解析(極限平衡法;LEM)で詳細に行う。
14)土層強度検査棒  土層強度検査棒研究会 https://dokenbo.org/   販売店 地盤リスク研究所  受け入れる土を現地で強度チェックするには、非常に簡易なツールが必要です。(土層強度検査棒に限りませんが)