| (計画書を作成する際に自由にお使いください) |
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| 概 要 | 『盛土等防災マニュアルの解説(以下「新基準」と呼ぶ)』においては、渓流に行う盛土で、高さ15m超、体積5万立米超の場合には、3次元解析を実施することが望ましい、と記載されています。3次元解析の方法としては、3次元変形解析、3次元浸透流解析、3次元安定解析の3種類の解析法が提示されています。1) 2) 3次元変形解析、3次元浸透流解析は有限要素法解析(FEM)で、3次元安定解析は極限平衡法解析(LEM)のことです。従来の盛土申請等で用いられた解析法は2次元極限平衡法解析(LEM)で、必要安全率(常時1.5、地震時1.0)を閾値として用いて安全性の判定を行っていました。3) 4) 5) 新基準で3次元解析が求められ始めましたが、具体的にどのように行ったらよいのか、そもそも何のために3次元解析が必要なのか(大規模盛土だから?渓流盛土だから?)について新基準には具体的な記載が無いので、多くの民間事業者が五里霧中状態に陥っています。 |
| 力学的解析法 | 新基準でも、安全性判定の閾値として提示されているのは、常時安全率Fs≧1.5、地震時安全率Fs≧1.0のみですが3) 4) 5)、この閾値は2次元安定解析(LEM)で定められたものなので、渓流の大規模盛土においても2次元安定解析相当の安全率によって判定されるべきものです。(3次元解析に必要安全率の閾値は存在しません。なお、世界標準の性能設計では安定解析の閾値は常に安全率Fs=1.0ですから2次元法と3次元法で評価基準の違いはありません) 新基準で渓流の大規模盛土に対して3次元解析を求める理由は、自然地盤と異なり盛土底面の渓流地形と盛土完成後の盛土上面の地形は整合的ではない(最大盛土高さの場所の直下に渓流が直線的に存在するわけではない等)ので、安全性をチェックするための2次元解析断面をどこに設定するのが適切なのかわかりにくいからです。 まず3次元解析で全体を概観し最も安定性が低そうな場所を、3次元変形解析結果の歪量分布や、3次元安定解析結果の最小安全率となるすべり面形状等で特定します6)。次に、その場所に2次元解析断面を設定して、より詳細な解析を実施して安全性について検討します。この手順により、見当違いの解析断面で安定性評価がなされないようにするのが一番大きな目的です。 力学的な3次元解析法として、変形解析(FEM)7)と安定解析(LEM)が新基準の中で示されていますが、最終的な安全性評価が2次元安定解析(LEM)で実施され、安全率で判定されることから、3次元解析は解析場所を特定するための予備的解析、2次元解析が詳細解析の位置づけとなります。 (ただし、過剰間隙水圧が発生して著しい低強度部が形成されないことがこれらの解析の大前提です) |
| 地下水の設定方法 | また、新基準には地下水の設定を3次元浸透流解析で実施することが望ましいと記載されています。その実施可能根拠として今まで盛土計画時に3次元浸透流解析を行った事例はないが、既存盛土であれば解析を実行中のものがある(静岡県、2022)と記載されています。 この、静岡県(2022)は熱海市伊豆山の逢初川土石流発生原因調査のものです。新基準執筆中と思われる時期には盛土における初の3次元浸透流解析の完成が期待されていたようです。 しかし、確かに静岡県の検証委員会において2021年11月26日の第2回委員会時には「解析作業実行中」でしたが、2022年3月29日の第3回委員会では、盛土内のパイピングホールや盛土と地山との境界部の高透水部などが解析に反映不能のため、3次元浸透流解析の遂行が断念されています。新基準は、最終報告書が公表される2022年夏に3次元浸透流解析が実現できる「見込み」で書かれたようですが、実際にはできませんでした。渓流盛土の3次元浸透流解析は未だにどこでも実現されたことはありません。 逢初川土石流の発生原因調査検証委員会 https://www.pref.shizuoka.jp/bosaikinkyu/saigai/atamidosha/aizomegawasaigai/1047027/index.html 新基準で3次元浸透流解析で地下水位を導くことが望ましいと書かれたときには、実施例はほとんどない8)が熱海市伊豆山の逢初川土石流発生原因検討委員会で新たな実施例が生まれると期待されていた時期と考えられます。しかし、現実には、多数の犠牲者を出したために巨費を投じて調査・解析が試みられた熱海市伊豆山の特別な場所にもかかわらず3次元浸透流解析はできませんでした。9)このため、技術レベルが未達のため渓流盛土の大規模盛土申請において3次元浸透流解析を実施する必要はないものと考えられます。 その代わり、地下水位の設定方法としては新基準のp.190 表V・3-410) 「間げき水圧を考慮する盛土及び間げき水圧の考え方」を採用して、盛土高の3分の1または2分の1に水位設定するのが妥当でです。 ただし、この設定では盛土内に常時飽和地下水が存在する前提となるので、盛土材が液状化し過剰間隙水圧が発生する状態になれば強度を著しく低下させるため盛土の安定を維持することは困難になります。液状化可能性のある盛土材を地下水位面以深に用いないようにする必要があります。11) 多くの盛土材は細粒分を多く含む中間土の性質を持っているため、盛土材自体は液状化しないことが大半だと思われますが、地下水の排水施設が不十分(新基準前に用いられていた工事中の仮排水を暗渠管に接合する中央縦排水工法などが用いられた場合等)だと地下侵食が発生し(新基準p.106の参考3.1「地下侵食の事例」参照)、盛土材自体が液状化しなくても土中に過剰間隙水圧が発生する場合があることが示されています。このような事態に陥らないような十分な地下水の排水が確保されていることが前提条件となります。 (新基準施行前に申請され施工されてしまった大半の既存盛土はその状態になっていませんので、ここに書いた方法では問題解決ができません。底面の地下侵食部に過剰間隙水圧が発生するので、底面強度と側面強度が著しく異なり、全ての段階で3次元解析による評価が必須です。2次元法では原理的に一切解けない問題です) |
| 合理的解析方法の提案 | 以上をまとめると、高さ15m超、体積5万立米超の渓流盛土の申請に際して実施する3次元解析としては、次の組合せが最適です。 1.まず3次元安定解析(LEM)12)により最小安全率となるすべり形状が出現する箇所を特定し、その場所が反映されるように2次元解析用の断面を作成する。なお、地下水位は、新基準p.190 表V・3-4の設定方法を用いる。 2.上記で作成された2次元解析断面を用いて安定解析(LEM)を行い、新基準で示される必要安全率(常時1.5、地震時1.0)を閾値として安全性の判定を行う。3次元法と2次元法の計算方法は合致させる(例えばヤンブ法等)。 3.盛土材の土質強度については、盛土材があらかじめ判明している場合には同じ材料を同じ締固め状態にして三軸圧縮試験を実施して強度等を計測する。 4.残土の受け入れ地など搬入される盛土材の土質強度が未確定の場合には、計算により必要安全率を満たす粘着力cと内部摩擦角φの組合せを示す13)。その際、現地で材料受け入れ時に土質強度をチェックする方法も示す。(土層強度検査棒ベーンコーンせん断試験などが簡易で実用的と思われる14)) 5.盛土地の上方に渓流の集水域が大規模に存在する場合には、盛土に出水時の渓流水を浸透させてから暗渠工で排水するのは、排水効率の点でも、地下侵食が発生する観点からも合理的ではないので、出水時の渓流水が排水できる地下河川化することが望ましい。(上流の集水域が比較的狭い場合には、出水時の流量も多くないので盛土上の地表水路に導くという方法もある) |
| 以 上 (予告なく追加記載・修正等を行います) |
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| ま と め | ◆力学的解析は、3次元安定解析(LEM)→2次元安定解析(LEM)→必要安全率による安全性判定の手順で行う ◆地下水解析に3次元浸透流解析は技術レベルがまだ未熟で実務に適用できないので、新基準のp.190 表V・3-4に従って設定する ◆盛土材の強度があらかじめ判明しておらず、受入れ残土の強度が未確定の場合は、2次元解析において受け入れる土の強度条件について詳細な検討を行う |
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