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盛土規制法の技術基準である『盛土等防災マニュアルの解説』 では、大規模な盛土に関しては3次元安定解析を行うことを推奨しています。3次元安定解析は、盛土の3次元形状や、滑動崩落時の側面効果等も見込めるため、順計算で盛土の安定性を評価できる唯一の方法です。 |
◆盛土等防災マニュアル(p.15):大規模な盛土
大規模な盛土は、2次元の安定計算に加え、3次元の変形解析や浸透流解析等により多角的に検証を行うことが望ましい。
◆間隙水圧の考え方(p.189-190):過剰間隙水圧
地震時に盛土や基礎地盤の液状化により、過剰間隙水圧の発生が懸念される盛土の場合は、土質試験あるいは動的強度試験を実施し過剰間隙水圧を求めることを原則とする。→技術基準で「原則とする」とされているものは、実際にはほとんど使わることがありません。別の合理的かつ簡易な推定法が必要です。
渓流盛土等における間隙水圧の考え方
(3次元浸透流解析ではなくp.190の表の考え方が用いられると思います)

◆3次元安定計算法(p.216):側面効果、水平震度
・3次元安定計算法は、三次元形状及び側面効果等も見込めるため、より実現象に即したシミュレーションが可能である。→地震時の変動は側面効果が支配的ですが、2次元計算では側面効果が考慮できないため、実現象に即した評価が不可能です。
・3次元安定計算に用いる水平震度は標準化されていない。→福島第一原子力発電所の地上送電線鉄塔(夜ノ森線No.27鉄塔)を倒壊させ、全電源喪失を引き起こした滑動崩落は、揺れのピークからかなり時間が経過してから崩壊しているため、過剰間隙水圧が発生するタイプの盛土では、設計震度を見込む必要はありません(kh=0)。

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| 解析費用(目安) |
ただし、盛土規制法による申請業務は始まったばかりなので、定型的な業務となっていないため、予告なく費用を改定する可能性が高いです |
下記の費用はあくまでも目安(消費税抜き)で、そのまま用いることができる3Dモデル等が依頼者側から提供された場合(こちらはプログラムを走らすだけ)のものです。
3次元安定解析(極限平衡法:探索型簡易ヤンブ法)
3次元解析で盛土全体の中の最も危険な箇所を抽出し、その場所の詳細な安全性検討を2次元解析で行う流れです(『盛土等防災マニュアルの解説』の趣旨から外れない最も合理的な方法です)。
(1)過剰間隙水圧を考慮しなくてよい探索型簡易3次元ヤンブ法:30万円〜見積/ケース(盛土規制法の新設盛土申請業務の大半はこれだと思います)
新設盛土の申請業務の場合、過剰間隙水圧が発生しないように排水計画を立てるはずなので、こちらのカテゴリーに入ります。モデルデータがどこまで作成されているかにより費用が異なります。
(2)過剰間隙水圧を考慮する探索型3次元ヤンブ法:100万円〜見積/ケース
既存盛土の場合、変動予測をするには地震時に過剰間隙水圧が発生することを考慮する必要があります。この方法でやれば「本当の変動予測」になりますが、第二次スクリーニングでこの方法が採用されたことは殆どありません。
申請者側から敢えて(3)と(4)を選択する必要はないと思いますが、審査機関に求められたらしょうがありません。特に(4)の浸透流解析を民間事業者の申請で自ら実施を申し出る合理性はないと思います。
(3)3次元変形解析(有限要素法):50万円〜見積/ケース
変形量を出しても意味がないので、せん断強度低減法(SSR)により安全率に換算して評価します。危険度/安定度評価は安全率でなされるので、本質的にFEMで解析する意味はありません。
(4)3次元浸透流解析(有限要素法):50万円〜見積/ケース
3次元浸透流解析が必要となるようなケースは盛土規制法の新設盛土申請業務ではないと思います。盛土内の地下水の多くはパイプ流ですが、浸透流解析では間隙流(マトリックス流)しか扱えないので制度の高い解析は不可能です。『盛土等防災マニュアルの解説』p.190記載の上記の表に基づいて、盛土高の1/3〜1/2が用いられるはずです。
盛土規制歩になっても、盛土の安全性評価は常時と地震時の必要安全率で行われます。このため、2次元法で行うしか方法論がありません。ただし、既存盛土の大半がそうであるような地震時に過剰間隙水圧が発生する盛土では2次元法では解けないので3次元法で評価するしか手立てがありません。(後日、盛土内に過剰間隙水圧が発生して盛土崩壊が起きた場合、解析者は責任を負いませんのでご承知おきください)
(5)2次元安定解析(極限平衡法;探索型簡易ヤンブ法):10万円〜見積/ケース
盛土の安全性照査は、3次元解析で最も不安定と認定された箇所の2次元断面において極限平衡法による安定計算により行います。2次元解析ではすべり面の過剰間隙水圧を考慮すると、安全率がゼロに近くなるため、過剰間隙水圧が発生しない程度に良好な地下水の排水設備が整備されていることを前提とします。
造成地目的であればあらかじめ盛土材の強度が判明しているでしょうからその値を用います。残土処分地木j的であれば受け入れ可能強度条件の決定を行います(後者はやや高価になります)。
※解析モデルをどの程度創りこんで提供されるかにより費用は、上記よりも高価になる場合もあります。
※確率解析(性能設計レベル1)の場合、50%増となります。
※(1)(2)は3次元極限平衡法(LEM;安全率の計算)の解析費用です。(3)(4)は3次元有限要素法(FEM;変形量の計算)の解析費用です。
※成功報酬制ではありませんので、審査機関が別の解析法を求められる等、手戻りが発生する場合にはその都度費用が積みあがりますのでご注意ください。(審査機関との方法論に関する詰めは依頼者の責任とさせてください。おそらく審査機関担当者の理解度によって相当の差があると思います)
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盛土の地震時ほか 3次元安定計算参考となる文献
※以下の文献は過剰間隙水圧が発生する既存盛土に関するものです。新設盛土は過剰間隙水圧が発生しない程度の排水施設・施工方法が取られるのが前提ですので、方法論が確立されている通常の土質工学的な方法で行います。 |
半自動で都市域の谷埋め盛土の安定度評価が可能なシステム
宅地盛り土における地震時滑動崩落に対する安全性評価システムの構築
中埜貴元, 小荒井衛, 星野実, 釜井俊孝, 太田英将(2012)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jls/49/4/49_164/_pdf/-char/ja
東日本大震災時前に仙台市太白区緑が丘周辺の危険度評価が「当たった」
2011 年東北地方太平洋沖地震による都市住宅域の斜面災害の予測と対策
太田英将、釜井俊孝、村尾英彦(2011)
https://ohta-geo.co.jp/cms/wp-content/uploads/paper-20110831.pdf
底面と側面(周縁部)の強度が大きく違うスベリでは常に同じバランス関係となる
2011年東北地方太平洋沖地震による造成地盛土地すべりと自然地盤地すべりとの共通性
太田英将(2011)
https://ohta-geo.co.jp/cms/wp-content/uploads/paper-201109.pdf
側方抵抗モデルを学会に公表した初めての文献
谷埋め盛土の地震時滑動崩落の安定計算手法
太田英将、榎田充哉(2006)
https://ohta-geo.co.jp/cms/wp-content/uploads/paper-20061130.pdf
盛り土の3次元安定計算について書いた論文(太田英将)、2022
福島第一原発を襲った土砂災害
〜夜の森線No.27鉄塔を倒壊させた盛土地すべり〜
https://ohta-geo.co.jp/cms/wp-content/uploads/paper-2022-forest.pdf
盛り土の3次元安定計算についての講演要旨(太田英将、廣野一道)、2021
福島第一原発の全電源喪失の原因となった盛土崩壊の検証
https://ohta-geo.co.jp/cms/wp-content/uploads/paper-20210916-2.pdf
表層崩壊で3次元安定計算を用いた事例(太田英将、美馬健二、川浪聖志)、2022
CIM時代の3D急傾斜地調査・解析方法
https://ohta-geo.co.jp/cms/wp-content/uploads/paper-20220928.pdf
既存地すべり跡から地質別の強度設定を逆算し新たな地形改変の安定性を評価
西岡 孝尚, 渡邊 浩幸, 太田 英将, 小森 和弘, 釜井 俊孝(2022)
砂岩泥岩互層(付加体)の道路切土に伴う初生地すべりの調査と評価
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgs/17/3/17_373/_article/-char/ja
kh=0条件で、過剰間隙水圧比は0.8となり、殆どの盛土で底面抵抗はゼロになる
太田英将(2025)
盛土規制法の3次元安定解析に用いる過剰間隙水圧比
2025年日本地すべり学会(奈良)研究発表会(予定)
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